血栓症のリスクと加圧トレーニングの関係

加圧トレーニングは比較的新しいスポーツであり、制度が確立したのもごく最近です。学会が発足したのが2004年、加圧トレーニング正規認定施設制度が確立、導入されたのが2014年。今、全国において注目されているポピュラーなトレーニングでありながら、歴史と実績がまだ浅いため、正しい知識が一般に浸透していないという問題を抱えています。それどころか、加圧ベルトを着用すること、イコール、血流を止めること、それが血栓症につながるという、オーバーな認識が広まってしまってもいます。

そもそも血流をコントロールするところにリスクがある

スポーツである以上、リスクが伴うということは常に認識し、自分と周囲の安全を心がけるべきです。リスクマネジメントをしっかりすることは、とても重要です。ただし、正確な知識がないままに無駄にリスクを恐れているのは、リスクマネジメントではありません。

ではまず、加圧トレーニングにおいて、負荷をかける箇所はどこでしょうか?それは、血管と筋肉です。加圧トレーニングは、腕や足の付け根に加圧ベルトを着用します。それによって何を起こすのかというと、まず、血流の制限です。血流を制限することで、血管が膨張し血液を溜めます。その状態で取れニーングをし、終わったらベルトを外します。すると、ベルトによって堰き止められていた血液が一気に身体中に循環するのです。これを繰り返し行うことで、加齢や疲労、ストレス、運動不足などによって機能が弱った血管への刺激となり、良い血行が蘇るのです。

次に、筋肉への刺激です。加圧ベルトによって、筋肉内を無酸素状態にすることで、乳酸の生成を促すのです。乳酸が出ると、脳は、筋肉の疲労を回復させ、新しい筋肉を作り出すために、成長ホルモンを分泌するのです。乳酸は、瞬発系の運動をしている時に生成されます。つまり、加圧ベルトを締めるということは、筋肉を、陸上競技全般や、野球、アーチェリーやフェンシングなどを行なっているのと同じ状態にしている、ということになります。

そこで、誤解をしてはいけないポイントがあります。血管に負荷をかけるのですが、それはあくまで「適切な」圧力をかけるのです。貧血やめまいにつながるほど、加圧ベルトをきつく締めるものではないのです。高血圧の人は特に注意しなくてはなりません。それに、血流を止めるくらいきつく締めてしまったら、細胞が壊死してしまい、トレーニングどころではありませんよね。かと言って、緩すぎても効果がありません。そこが、判断の難しいところです。

もともと血管の流れというのは、生体認証に使われるほど個人差があるものなのです。ですから、どのくらいの圧力が自分に合っているかというのは、素人には分からない専門的な範囲の話になるのです。そこを自己流で判断して、適切でないトレーニングを課してしまったがために、血栓症のリスクを大きくすることだけは避けなければなりません。

筋肉に関しては、理論上は、無酸素状態にすればするほど良いことになります。たくさんの乳酸が生成されれば、成長ホルモンも活発になり、新たな筋肉をたくさん産んでくれます。しかし、短距離走の筋肉の使い方で長く走ることができないように、フェンシングの選手が攻撃ばかりを長い時間できないように、そもそも筋肉は無酸素状態を長く続けることはできないのです。

加圧ベルトは、瞬発系のスポーツをやっている状態になるよう、筋肉をサポートする道具でもあります。つまり、実際に瞬発系の運動を行うよりも楽な状態で、無酸素状態を作り出せてしまうのですが、やはり「適切に」使うべきなのです。長時間の使用で、翌日大変な疲労が残った、という話はよく聞きますので、やはり素人判断はリスクが大きいと言えます。

やり方を間違えると脳梗塞の原因にもなる

血流をストップさせるわけではないにしても、加圧トレーニングにおいて、人工的に血流制限をするというプロセスは、加圧トレーニングにおけるリスクであることには変わりありません。気をつけなくてはいけないのは、虚血状態、つまり局所的な貧血に陥ることです。加圧ベルトで締めている段階で、体調によっては起こり得ることです。

ベルトを外す段階にもリスクはあります。今まで制限されていた血液が一気に流れる段階で活性酸素が大量に発生し、それによって血管がダメージを受けてしまうという。時には血管が傷ついてしまうことも、考えられます。特にストレスが大きかったり、疲れていたりする時は、血管も疲れていることが多いので、注意しなければなりません。

最大のリスクは、以上のような虚血状態と、血管がダメージを受けた状態を、早いスピードで何度も繰り返されることです。傷ついた血管を修復する細胞の働きはゆっくりなので、トレーニング中の血流のリズムに合わないのです。血管内にかさぶたを作ろうとして頑張っても、すぐに大量の流れがきてしまうからです。そのため、丈夫なかさぶたになる前に、血の塊として血管内に流れていってしまう…これが血栓です。この状態は繰り返されるほど、大きな血栓が出来て行ってしまうことになります。

加圧トレーニングのことをしっかりと理解しよう

今や日本国内だけでなく、海外でも「KAATSU」の名で知れ渡っている加圧トレーニングは、佐藤義昭医学博士が発案しました。佐藤博士はジムなどがまだ一般的でない時代にボディビルに興味を持ち、自己流で試行錯誤を繰り返しながらトレーニングを実践していたそうです。加圧トレーニングを思いついたきっかけは、法事で長時間、正座をしていた際に痺れた足に触れた時でした。ハードなトレーニングを課して、血流が悪くなった時の筋肉の状態そのものだ!と佐藤博士は気付いたのです。

その経験から、人工的に血流を制限することができれば、効率よい筋肉トレーニングに繋がるのではないか、という発想に至ったのでした。それから40年以上の間、博士自身自ら実験台になり、テストと検証を繰り返し今の加圧トレーニングが育まれてきました。当然、加圧の加減を間違えるというエラーもその間に何度もあったようで、佐藤博士はそのせいで、何度も病院に運ばれた経験があるそうです。

このような経緯で生まれた加圧トレーニングは、今やスポーツ界だけでなく、医療やリハビリの分野からも注目されています。例えば、体を動かすことが出来なくなった脳梗塞の患者は、加圧トレーニングをすることによって、筋力機能の早期回復を見込めます。

一般的なリハビリ運動は特に、効果を得られるまでは時間がかかります。しかし、加圧をすることでで短期間で筋肉量をアップさせることが出来れば、回復への道は早くなるのです。

自分で思うように体を動かせない、という点では宇宙での活動も同じことです。無重力空間での活動では筋肉を使わないので、筋肉はどんどん衰えて行ってしまいます。血液、体液にも影響があります。地球では重力によって足の方へと向かいながら循環するのですが、無重力空間ではうまく下半身に回りません。そのため、頭痛やしびれ感に悩む宇宙飛行士が多く、その解決策として、「KAATSU」が注目され始めています。「NASA」の研究課題にも挙がっています。

まとめ

日本人は特に、何事においてもストイックに頑張ってしまう人が多い傾向にあります。ですので、加圧トレーニングを自己流で行なった場合は、圧力をかけすぎてしまったり、長時間やりすぎてしまったりする人が出てくる確率は高いように思います。血栓ができるのが怖いと、必要以上に加圧トレーニングのリスク面を恐れるのも、そのためかもしれません。加圧トレーニングは、プロの目によって監修してもらうことが何よりも重要になります。